News & Topics

横浜合同法律事務所ニュース15

自殺は特別な損害なのか

弁護士 田渕 大輔
  1.  海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」に乗艦していた21歳の自衛隊員が、先輩隊員から殴る蹴るといった暴行や、電動ガンやガスガンで日常的に撃たれるといった暴行、さらには、金銭を脅し取られるといった恐喝の被害を受け続け、自殺したことについて、遺族が国と先輩隊員に対し損害賠償を求めていた民事事件の判決が、本年1月26日、横浜地裁で言い渡されました。
     判決は、国及び先輩隊員双方の賠償責任を認める一方、賠償責任の範囲を暴行及び恐喝による精神的苦痛の範囲に限定し、自殺についての賠償責任を否定しました。判決が自殺についての賠償責任を否定した理屈は、先輩隊員からのイジメによる自殺を「特別損害」と捉え、自殺についての予見可能性がなかったとしたことにあります。

  2.  しかし、自衛隊では、年間100名前後の隊員が自殺しており、隊員の自殺率は一般社会の自殺率を上回っています。隊員の自殺の中には、隊内でのイジメを苦にしたものも含まれています。
     また、自衛隊は、隊内でイジメなどの私的制裁が横行していることを問題視して、私的制裁を防止するための教育資料を作成するとともに、隊員の自殺防止を目的としてメンタルヘルスに関する教育資料を作成し、その中でも、隊内でのパワーハラスメントが隊員をうつ病等の精神障害に追い詰め、自殺に至る危険があることを教育内容として掲げています。
     そのため、自衛隊にとって、隊内でイジメが起き、被害者がうつ病等の精神障害を発症するまでに追い詰められ、最悪の場合、自殺に至ることは、想定された範囲内の出来事であって、何ら「特別」な出来事ではないのです。

  3.  労働者が、職場における過度のストレスから、うつ病等の精神障害を発症し、自殺にまで追い込まれることは珍しいことではありません。そのため、現在、職場における過度のストレスによってうつ病等の精神障害を発症し、その結果自殺した場合、自殺による損害は「通常損害」と捉えられています。同時に、使用者は、労働者が過度にストレスをため込むことがないよう配慮する安全配慮義務を負っています。
     自衛隊も20万を超える人々が働く職場である以上、国は、1人1人の隊員が過度にストレスをため込むことがないよう配慮する法的義務を負っています。そして、国がその義務を果たすことを怠っていれば、今後も、過度にストレスをため込んだ隊員が自殺することは避けられないでしょう。そのため、隊員の自殺は「特別」な出来事ではなく、自衛隊にとって「通常」起こり得る出来事として捉えられ、隊員の自殺を防ぐための対策を講じることが自衛隊の責務であることが確認されなくてはならないのです。
     横浜地裁で言い渡された判決に対しては、直ちに控訴を行っており、控訴審は間もなく始まります。控訴審では必ず結論をひっくり返して、隊内でのイジメによる自殺を「通常」起こり得る出来事と捉えた判断が得られるよう、引き続き全力を尽くして参ります。
 

TPP=平成の開国?

弁護士 小口 千惠子

 TPPとは、環太平洋戦略的経済連携協定の略で、元々2006年にシンガポール(人口470万人、穀物自給率0%)ブルネイ(人口40万人、穀物自給率0%)、チリ、ニュージーランドの4カ国が加盟して発効させたものであり、もともとは貿易依存度が高い小国同士が自由化を進めようとした協定だった。

 米国は、2010年10月このTPPに参加を表明してこれを急速に推し進めることとなった。

 今、日本は、「バスに乗り遅れるな」とあわててこれに乗り込もうとしている。

 現在の参加国と交渉国、それに日本を加えると、これらの国のGDPのうち、9割以上を米国と日本で占めるため、実質的には日米の自由貿易協定とも言われている。

 ところが、この協定の内容は、あらゆる商品やサービスを無関税とし、労働者・国際資本の国際移動を自由にし、その他の障壁、すなわち、原産地表示や食品安全基準・残留農薬基準・医療安全基準・住宅安全基準など、日本では厳しく定められている規制も撤廃するというものである。

 この例外なき自由貿易協定を結ぶと,日本の農業は壊滅的打撃を受けることとなる。国民の命の根幹をなし,武器と同じ「戦略物資」とされる食料を、ほとんど海外に依存しなければならないという歴史的にも前代未聞の事態となってしまう。しかも,食料価格は高騰し,人口爆発の時代にあって、将来は簡単に食料調達するということさえ出来なくなるだろう。

 また,BSEの安全基準だの,残留農薬基準も撤廃されて米国の基準に合わせて食べ物のレベルも下がることとなってしまう。

 さらには,農業が壊滅すれば、国土や環境などに計り知れない影響が及ぶこととなる。洪水が起き、土壌が流出し、地下水の涵養もなされなくなる。様々な文明が土壌流出から滅び砂漠に埋もれていったことを思い出さなくてはならない。

 また、TPPは、農業だけの問題ではない。あらゆるサービスがその対象だから、医療では儲かるビジネスで国民平等の原則は捨て去られ、労働市場の自由化も深刻なひずみをもたらすだろう。

 グローバル企業の利益は必ずしも国民の利益とは一致しない。企業は儲けた巨額の利益を内部留保し、ワーキングプアを生んだだけであった。また、国民生活を保護する規制をはずして米資本にビジネスチャンスを提供する必要はない。

 政治家は、大企業や米国の利益に目を向けるのではなく、国民のためにきちんと仕事をしてほしいと思う。

 
 

地域主権改革で私たちの生活はどうなるの?

弁護士 田井 勝
  1.  鳩山内閣発足以来,民主党政権は「地域主権改革」を進めようとしました。そして政府で地域主権改革関連法案が閣議決定された後,今年5月には「地域主権改革」との文言を削除しただけの変更を経て,この法律が国会で成立しました。
     しかしながらこの法律は,我が国おけるナショナルミニマム(政府が全ての国民に保証する最低限の基準)を軽視するものであって,大きな問題をいくつか抱えております。

  2.  憲法25条2項は,国が「社会福祉,社会保障」の「向上及び増進に努めなければならない」とし,社会福祉及び社会保障は,国の責任であることを明確にしています。
    地域主権改革は,この国の責任で定めていた社会保障などの基準を地域に委ね,責任も地域に負わせようというものです。

  3.  具体的には,施設・公物設置管理の基準として,児童福祉施設の設備及び運営基準は従来法律で定まっていましたが,今後,地方の条例に委任されます。このことにより,地方自治体の財政と判断によって,すし詰めの保育園教育が生じたり,あるいは,子どもの成長に必要な給食が廃止される恐れも生じます。
     また,公営住宅の整備基準及び収入基準等も,各自治体の条例に委任されます。このことにより,赤字の自治体では,公営住宅の修繕が満足にできなくなったり,あるいは,住民の公営住宅への入居は更に狭き門になされる恐れもあります。
     そして,住民の健康を守るため,採算の合わない救急業務等を行っている地域医療の整備について,地方自治体の定める医療計画において「定めるよう努める」,つまり,努力義務に過ぎないと明記されました。このことにより,赤字の地域病院などは,最低限必要な設備や技師などを置かない途を選ばざるをえず,命を守るはずの医療に地域格差が生じる恐れが生じます。

  4.  地方は現在,小泉政権による三位一体改革により,国の夜補助金や甲税が既に減らされており,格差が広がっています。たとえば児童への就学援助は,その 三位一体改革で地方に財源移譲された結果,財政の厳しい自治体ではどんどん減らされてしまいました。今後そういうことが他のいろんな施策でも起こりかねません。
     このままの状態で,社会保障の基準を地域に委ねたり,責任を地域に追わせれば,地域ごとの格差は益々広がり,特に貧しい地域の住民の福祉は崩壊しかねません。
     今後はこの地域主権関連法について断固反対するとともに,これ以上の改正がなされないよう,阻止しなければなりません。

以上

 

 

弁護士 関守 麻紀子
  1.  東日本大震災から3か月以上が経ちましたが,被災地の方々が今なお非常事態を余儀なくされています。また,多くの人が福島第一原発事故による放射能汚染の非常な恐怖にさらされ続けています。

  2.  今回,自衛隊員の献身的な活動やトモダチ作戦と称された米軍の協力に多くの人が感謝し,励まされもしました。けれど,災害救助活動と軍事活動とは,全く異なるものです。また,米軍の活動についていえば,純粋に米国の国益,つまり,日米同盟の強化や対中国戦略などに適うと考えるからこそのものでしょう。
     評価を誤ることがあってはならないと思います。

  3.  震災後,横田基地の在日米軍司令部内に,米軍の「統合支援部隊」が設置されており,日本側からは自衛隊幹部が常駐しているそうです。さらに,この司令部の下,防衛省内と自衛隊仙台駐屯地には,「日米共同調整所」が設置されています。これらは,まさに,米太平洋軍の主導による日米両軍一体の共同作戦であり,日米防衛協力指針(新ガイドライン)で示された「共同メカニズム」を具体化するものと言えます。

  4.  また,米国から「生物・化学・放射線・化学・高性能爆発物対処部隊」CBIRFが来日して横田基地に駐屯待機し,自衛隊と共同訓練を行ったとの報道もありました。しかし,福島第一原発には入っていないようです。
     朝日新聞(5/7)によれば,米国は,従来から,原発テロへの警戒から,日本の原発を視察するなどしており,05年11月には国民保護法に基づいて美浜原発で実施されたテロ訓練を米大使館担当者が視察し,「国内に点在する54基の原発に外部からの脅威が存在することを,日本政府は認識し始めている」と本国へ報告したり,07年2月の米国務省原子力担当幹部との会合では,米側が日本に対して,原発従業員の身元調査を実施するよう促すなどのことがあったようです。

  5.  この震災が,日米軍事同盟を強化し,実戦訓練を行う機会となってしまいました。
     朝日新聞に掲載された(5/15)米戦略国際問題研究所日本部長マイケル・グリーン氏の「在日米軍と自衛隊は前例のない大規模作戦を成功させた。中国は間違いなく分析している。在日米軍と自衛隊はここまで相互運用性があるのかと驚いたと思う。」とのコメントがそのことを物語っていると言えます。
     私達は,冷静に事態を見ていかなければなりません。

4月22日 政治家,経済産業省原子力安全・保安院,米軍,米原子力規制委員会(NRC),東京電力関係者らによる「福島第一原発事故の対応に関する日米協議」が発足。「日米協力の最高意思決定機関」と位置づけられる。

 

宮城県名取市を訪れて

弁護士 近藤 ちとせ

 3月11日の大震災から,もうすぐ4ヶ月が経とうとしています。
 震災から1ヶ月半ほどが経過した4月24日,私は,自由法曹団という法律家団体の震災対策チームの方々と一緒に宮城県名取市を訪れました。私たちがこの土地を訪れた目的は,被災の現状を実感すると共に,被災者の具体的なニーズなどを聞きとることで,被災者の救援と生活再建活動に活かすためでした。今回は,名取市で私が見てきた状況を報告したいと思います。

 私が訪れた4月の下旬は,ちょうど震災後寸断されていた東北新幹線が復旧しはじめたころでしたが,新幹線は福島までしか通っておらず,福島からは在来線で仙台入りしました。到着した仙台駅は,駅前のビルなどに地震による被害の跡はのこっていたものの,想像していたよりは平穏な状況でした。しかし,仙台駅からバスに乗って,名取市の海岸部,閖上(ゆりあげ)地区へと進むにつれ,様子は一変しました。

 閖上地区は,仙台から直線距離で12〜3キロほど離れた仙台平野の海岸部に位置していますが,バスを降りてみると,そこは見渡す限りのガレキの荒野であり,よく子どもの頃教科書で見た,「戦後の焼け野原」のようでした。そこにあったはずの家,学校,病院,商店,道路等の施設は全て津波で流されてしまい,家やビルの基礎部分とガレキ,そしてときおり船がぽつりと残された荒野が内陸に向けてずーっと先まで広がっていました。反対に海辺の方向を見ると,そこには長い海岸線が続いていました。
 この地域では,800人以上の住民が逃げ切れずに亡くなられたそうです。見渡す限り,山も何もない平らな荒野を見ながら,ここに住んでいた人々が,津波から逃げるようにも逃げ場もなく,ただ波に飲み込まれていったときの恐怖を思うと足はすくみ,また,いいようのない無力感が胸を充たしました。
 私は,戦争を体験したことはないのでよく分からないのですが,戦後の焼け野原に立った日本人は,こんな感覚だったのかもしれないと思いました。
 一面の荒野は,風が吹くと埃が舞い上がり,少しの間,周辺をあるいただけでものどが焼けるような感覚を覚え,すぐにマスクをしました。

 それから,名取市文化会館の避難所へ行きました。名取市等の海岸地域一帯から,命からがら逃げてきた人たちが生活していました。この文化会館には,震災直後は1200人もの人がいたそうですが,4月の当時は,400人ほどの生活の場となっていました。開館の建物内は,部屋だけでなく,廊下にまで人々が段ボールで生活空間を区切って,生活していました。

 命を失うこと,生活の場を失うこと,職を失うこと,その一つ一つの意味が強く重く染みわたってくる経験でした。被災者1人1人にとって,生きていく希望が戻ってくるような復興を目指さなければならないと感じました。

 

年内には判決が - 米兵犯罪被害 - 山崎事件・近藤事件

弁護士 高橋 宏
  1.  相次ぐ結審
     2006年1月3日の事件発生から、5年半が経過した6月16日。山崎事件の控訴審が結審しました。また、その約一ヶ月前の5月19日には、2006年11月2日に発生した近藤事件の横浜地裁での審理が、結審しており、年内には、両事件の判決が相次いで言い渡される見通しです。

  2.  山崎事件
     山崎事件には、米兵犯罪の典型例であるという特徴と、他の米兵犯罪とは異なって、勤務開始時間直前(7分前)に行われたという極めて特異な特徴とがありました。
     米兵犯罪は,基地の提供に伴う危険性が現実化したものに他なりません。国の原発政策に伴う危険が現実化してしまった今日の状況と同様に、国の基地政策に伴うこれらの危険が現実化してしまったときに、そのことによる損害を、常に、被害者個人に負担させるということで良いのか、それが損害賠償の公平の理念に適うのか、ということが、米兵犯罪事件では、正面から問われているのです。一審判決が、勤務時間外であっても米軍(上司)の監督義務が及んでおり、具体的な義務違反が認められれば、米軍・国に責任が生じることを、明確にしたのも、当然のこととは言え、重要な成果でした。
     もっとも、一審判決では、もうひとつの特徴である勤務開始時間直前(7分前)に行われたという特徴については、全くと言って良いほど評価されませんでした。米軍(上司)が、勤務開始時間には遅刻をするな、酒に酔って職場に来るな、寝不足のまま職場に来るなという、ごく、常識的な監督を日ごろから行っていれば、本件犯行は発生しなかったのでした。

  3.  近藤事件
     また、近藤事件は、人事部副部長という高官が犯した米軍属の犯罪ですが、兼業禁止違反(基地外における商業活動や私的営業を禁じた在日米海軍通達に違反して、ライブ・バーを経営していた)と、職務時間中の職場離脱行為という、二重の規律違反を繰り返していたのに、そのような米軍属の行為を、米軍が黙認した結果、顧客である中川さんに対する傷害致死事件が発生してしまったものです。

  4.  勝利判決を
     いつまでも繰り返される米兵犯罪問題にとって、大きな突破口となる判決を、是非とも勝ち取りたいと思います。

 

改憲に向けた気になる動きについて

弁護士 太田 啓子

 改憲手続に必要な国民投票法が施行されてから、今年の5月18日で1年が経過しました(成立は平成20年5月18日)。国民投票法は、最低投票率の定めがないこと、公務員に運動制限があること等、多くの懸念を抱えたまま拙速に成立させられたことをご記憶でしょうか。

 さて、東日本大震災の報道の中で見落とされがちですが、改憲に向けた気になる動きが最近ありました。

 民主党は今年の5月9日、党の憲法調査会を設置し、会長に、9条改憲論者として知られる前原誠司前外相を充てると発表しました。

 更に、6月7日には、民主、自民など超党派の改憲派議員約100人が、「憲法96条改正を目指す議員連盟」(以下「議連」といいます)を発足させました。憲法96条は「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。」と定めています。議連は、この改憲の発議要件を衆参各議員の「3分の2以上」の賛成から「過半数」に変えることを目的としています。議連は表向きは、目的を96条改正のみに絞っています。しかし、改憲したい条項が特にないのに憲法改正を今より容易にすることを目指すというのはあり得ない話です。現に自民党の発起人である下村博文元官房副長官は5月3日の「新しい憲法をつくる国民会議」講演で「まず96条(改正)、それから総定数500人の一院制、そして憲法9条改正、これを果たしていくのが国会の役目」と述べており、議連の目的が事実上9条改憲にあることは明らかです。

 また、超党派の新憲法制定議員同盟(会長・中曽根康弘元首相)は4月28日、「(震災で)現行憲法の欠陥が明らかになった」として、震災に即応できる新憲法の必要性を訴える決議を採択するなど、東日本大震災に絡めて改憲を実現しようとする動きもあります。

 本当に現行憲法には何か「欠陥」があり、今の日本社会が抱える問題はそれに起因しているのでしょうか。私にはとてもそうは思えません。原発事故で放射能による人体汚染の不安が広がる今、事故ではなく故意に、人体に放射能被害を及ぼすことを目的とする原子爆弾や劣化ウラン弾等の武器の非人道性を強く実感しています。そして、戦争を放棄すると宣言している憲法9条は絶対に守りきって後世に引き継ぐべきと改めて思います。福島の原発事故後、放射能汚染を心配して食物を厳選したり子どもをプールに入れていいか悩んだり「シーベルト」と「ベクレル」の違いをマスターしてしまったり、そんな異常なことが日常になってしまっていますが、ひとたび戦争が起きたら更に異常なことが日常になるでしょう。平穏で平凡な生活がどれだけかけがえのない大切なものか、多くの人が津波の映像を見ながら思い知らされたはずです。平穏で平凡な日常を奪う戦争につながる扉は絶対に開いてはならない、憲法9条改悪につながる動きは絶対に阻止しなくてはならないと強く思います。

 東日本大震災に対する政府の対応には確かに多くの不満を抱かされますが、しかしそれは現行憲法の「欠陥」に起因するものとは全く考えられません。むしろ、現行憲法が保障している「生存権」「教育を受ける権利」「幸福追求権」「勤労の権利」等の基本的人権を被災地でどう実現するかという議論こそが必要で、改憲などではなく、現行憲法の精神を生かす政策実現が急がれるべきです。

  安倍政権の頃と比べ、近年は改憲に向けた動きは少し目立たなくなったようにも感じられていましたが、現行憲法を変えたい、特に9条を変えたいという勢力のエネルギーは全く衰えておらず、改憲に向けて動く機を常にうかがっているのですね。このような動きを看過せず、批判し続けることが重要だと思います。

以上

  
 

原子力空母問題

弁護士 根岸 義道
  1.  史上最悪といわれる福島原発事故発生の3月11日から1週間もたたない3月17日、東京高等裁判所第10民事部(園尾隆司裁判長裁判官、深山卓也裁判官、櫻井佐英裁判官)は、原子力空母の原子炉事故を憂える住民の訴えを退ける判決を出した。

  2.  裁判の経過は、以下のとおりである。
     国と米国は横須賀配備の米空母を原子力艦に変更しようとしたが、原子力空母が入港するには日米地位協定で米軍に提供されている水域(提供水域)の水深が浅すぎるため、国は、平成20年8月に横須賀市長の了解を得て、浚渫工事を計画した。
     このように、浚渫工事は、原子力空母を横須賀港に入港させるための工事であり、原子力空母は、搭載した2基の原子炉で発電して航行するものでありながら、原発には曲がりなりにも国による安全性のチェックがあるのに対し、原子力空母には、米軍自身が安全であると言う以外、何らのチェックも行われていない。まさに究極の「安全神話」である。
     しかも、海洋を航行する原子力空母には、陸上に建設された原発以上に、座礁その他の危険がたくさんあり、もし東京湾航行中や横須賀港接岸中に事故が発生すれば、福島原発事故を優に超える被害をもたらすため、多くの住民が、国を相手どった浚渫工事差止の裁判に立ち上がった。
     しかし、国は裁判の最中も工事を進め完成させてしまったため、裁判の内容を、浚渫した水域の埋め戻しと、原子力空母の通行禁止を国に求めるものに変更したが、最初に述べた判決はこれに対するものである。

  3.  判決は、原子力空母の危険性や住民の被害の恐れには全く口を閉ざす一方で、埋め戻し要求については、提供水域は米国がすべての管理運営権限を持っているので、浚渫工事を行った国にさえも埋め戻し工事を行う権限はないとして認めず、また原子力空母の通行禁止の要求についても、提供水域の通行・使用を禁ずることができないばかりか、その他の水域でも、日本の法律に基づき通行・使用を禁ずれば、提供水域での通行・使用を禁ずることができないということの潜脱になるから許されないとして認めなかった。
     すなわち、この判決は、原子力空母が、原子炉事故で放射能を振りまきながら、横須賀港に向かって東京湾を航行していても、国をはじめ誰もこの航行をやめさせることができないというものだ。
     こんなことを判決で命ずる裁判官たちは、一体国の主権というものをどう考えているのだろうか、疑問を感じざるを得ない。

  4.  原発事故発生後、これまで全国各地で原発建設差し止めの裁判が行われてきたことが報道され、その中で住民の要求をことごとく退けてきた裁判官たちの責任が厳しく指摘されている。
     日本国憲法の立場に立って、国民の人権を守るために裁判を行おうとする気概を持った裁判官が、最高裁を筆頭に極めてわずかであると言わざるを得ない現在、裁判官の氏名を明らかにした批判が、国民の憤りを込めて、もっと多く行われるべきではないかと思う次第である。
 

今こそ「脱原発」の選択を

弁護士 北神 英典

 福島第一原発の大事故に接し、メディアに長く在籍した者として感じるのは、メディアが、なぜ、原発の危険に対してもっと警鐘を鳴らすことができなかったのか、ということです。事故の前から「想定している地震や津波の規模が小さすぎるのではないか」とか「原子炉を冷却する施設が脆くはないか」とか、それなりに危険性が指摘されていたというのであれば、なおさらです。

 私が共同通信に在籍していた1986年、旧ソ連でチェルノブイリ原発事故が起き、日本でも新聞の世論調査で、初めて原発反対派が賛成を上回りました。素朴な科学技術信仰に基づく賛成意見や、資源小国として原子力発電に活路を見出すべきだという意見を、原子力が持つ計り知れない危険性に対する不安が初めて上回ったのです。

 チェルノブイリ後、原発や原子力施設の建設計画が進行する地域で、反対派は勢いを増しました。マスメディアでも、原発の危険を前面に出した記事が多数出稿されていました。

 しかしそれらの報道は、その後の政府のエネルギー政策に大きな影響を与えたとは思えません。日本の電気に占める原子力発電の割合は着実に上昇し今や3割に達しました。90年代後半、地球温暖化防止でCO2削減問題が深刻化すると、原子力発電はCO2を排出しない「クリーンエネルギー」として、もてはやす空気も広がりました。

 全体としてみればメディアは、原発のリスクに警鐘を鳴らすどころか、結局、政府や電力会社、原子力研究者の「絶対安全」PRに抗しきれなかった、あるいは、商売のため積極的に迎合していったのだと言わざるを得ません。

 国策として推し進められた原子力発電は、電力会社やプラントメーカーなど多数の産業がぶら下がって大きな利益集団を形成しています。原子力の研究者たちも、原子力の利用を否定する立場では研究費も賄えません。大半の研究者は、研究者仲間で村八分になることを恐れ、原子力を推進・肯定する側に回ることになりました。

 危険を強調した少数の研究者の声は、政府や他の研究者から「感情論で非科学的だ」との批判を浴び、メディアが原発否定の論拠としにくい空気が作られました。正直なところ、共同通信の社内でも、原発の危険を強調する記事を書く記者は「バランス感覚を欠いている」とか「感情論で記事を書く」とか、否定的に評価される風潮が感じられました。

 共同通信のスポンサーである地方紙の中には、会社を挙げて原発誘致を推進するところもありました。80年代末、共同通信のある地方支局に、大家である地方紙の幹部が勝手に上がり込み、反原発運動を熱心に取材していた若い記者の私物を無断で漁った末、取材資料を捨てていく - という問題まで起きました。

 今から振り返ると、批判を封じ込めようとする政府や電力会社の情報誘導に、メディア全体が乗っかってしまったと言わざるを得ません。

 朝日新聞の元科学部長、柴田鉄治さんは、メディアが犯した間違いの中で、最も罪深いのは、チェルノブイリ後の原発の「絶対安全」キャンペーンを批判しきれなかったことだったといいます。人間が原子力を完全にコントロールできることなどありえず、「絶対安全」こそがまさに「非科学的な感情論」だったのです。

 どこまで被害が拡大するのか、福島原発の事故の着地点はまったく見えませんが、原発の推進・温存という選択肢が間違っていたことだけは、もはや明確になったと言わざるを得ません。

 日本の原子力政策は「脱原発」に向けて抜本的に転換するしかないと確信しています。

 

『弁護士』を目指して

弁護士 清水 俊

 昨年12月に入所しました,清水俊と申します。「2世〜」と言うと聞こえが悪いのかもしれませんが,私はいわゆる「2世弁護士」です。私は,弁護士である父の影響からか,小学校の卒業文集のなりたい職業欄に「弁護士」と書いていました。なぜそんなに早く将来を決めていたのか,今は当時の気持ちなど覚えていません。

 ただ,父に連れられ,法律事務所や,ビラ配り・集会などの運動に遠足気分で行っていました。そのため,事件の当事者や支援者の方々が身近な存在でした。運動の雰囲気を肌で感じていました。

 今年の5月24日,再審無罪となり確定した「布川事件」で,犯人とされていた杉山卓男さんや桜井昌司さんも,そんな身近な人のうちのひとりでした。

 杉山さんは,刑期を終えた後,植木職人として働いていましたが,我が家の植木の手入れもお願いしていました。中庭でお茶を飲みながら話もしました。その後,今年の国民救援会の旗開きで杉山さんと再会し,腕を組んで「団結がんばろう」を一緒にすることになるとは夢にも見ませんでした。

 桜井さんは,自由法曹団東京支部で毎年秋に行われるソフトボール大会に,同じチームの一員として戦いました。「刑務所の野球よりぜんぜん楽だぜ!」と言って,イニングが変わるたびにベンチからグラウンドへ走っていく姿を見て,なんだか笑ってしまうような,でも涙が出てしまうような,そんな気持ちになったことを覚えています。

 そういった触れ合いの中で,『弁護士』という職業 - 私にとっては,冤罪の汚名を晴らしたり,社会的弱者を救うなど正義を貫く職業 - に憧れ,目指したのだと思います。

 そして,横浜合同の先生方は,まさに私が思う『弁護士』でしたので,そんな先生方のいる横浜合同に入れたことを本当に嬉しく思っています。

 入所して6ヶ月,「6年ぶり20代弁護士」とチヤホヤされる期間は,終わりました。今は,横浜合同の一員として依頼者のために全力を尽くしたいと思いながら,日々仕事に励んでいます。あと半年後には,早くも次の後輩が入る予定ですので,先輩らしいところが見せられるよう,より一層精進していかなければならないと思っています。依頼者のみなさまは,その多くの方が人生の先輩にあたり,むしろ私の方がいろいろと教えていただくことも多いと思いますが,これからもよろしくお願いいたします。

 

労災保険法及び自賠法ので外貌醜状の認定基準の男女格差是正

弁護士 西村 紀子

 顔などの外貌に大きな傷(醜状)が残った場合、労災保険法施行規則別表で後遺障害と認定されることになります。この労災保険法による認定基準は、同時に、交通事故の損害賠償の際の後遺障害等級の認定基準ともなっています(自動車損害賠償保険法施工令の別表)。

 ただし、従前は、その認定基準では、女性のほうが男性よりも外貌醜状による被害や精神的苦痛が大きいとして、以下のとおり、女性のほうが男性よりも高い認定基準とされていました。
(従前の等級)

(男性)14級男性の外貌に醜状を残すもの
12級男性の外貌に著しい醜状を残すもの
(女性)12級 女性の外貌に醜状を残すもの
7級女性の外貌に著しい醜状を残すもの

 しかしながら、平成22年5月27日に京都地方裁判所で、外貌醜状について、男性と女性の間にこのような格差があることは、憲法第14条の法の下の平等に反して違憲である旨の判断が出されました。

 確かに、このような格差は、男性に対する差別でもありますし、また、女性が就労の機会において外貌を理由に男性に比べて制約されることを是認するという面もあり、二重の意味で、差別であるといえるでしょう。特に、昨今は、男性も、外見を重視するようになり、社会生活における精神的苦痛が女性のほうが男性より大きいと言える情勢ではなくなっていると思います。

 このような状況を受けて、労災保険法が改正され今年2月1日から施行されました。さらに、これを踏まえて、自動車損害賠償保険法施工令の別表も今年5月2日付で改正・施行されています。改正により、外貌醜状についての基準が男女とも統一され、

12級外貌に醜状を残すもの
9級外貌に相当程度の醜状を残すもの
7級外貌に著しい醜状を残すもの

とされることになりました。

 新たに9級が新設されています。

 従前は、男女とも、「外貌に醜状を残すもの」と「外貌に著しい醜状を残すもの」の2つしか基準はなかったのですが、今まで「外貌に著しい醜状を残すもの」とされていた醜状について、さらにその中で醜状の程度に応じて2つに基準を分け、程度が軽いものが9級に、重いものは7級になることになりました。

 なお、顔面部に醜状が残存した場合のそれぞれの評価基準としては、以下の内容で人目につく程度以上のものをいいます。

12級10円銅貨大以上の瘢痕、長さ3センチメートル以上の線状痕
9級顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕
7級鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没

 今まで、このような男女の格差が残されていたことに問題があり、今回の改正は、極めて妥当なものと思います。

 今後の実務に大きな影響を与えるところですので、ご報告いたします。

以上

 

未公開株勧誘にご注意!(その弐)

弁護士 浅川 壽一
  1.  はじめに
     前回(二〇一一年新年号)に続き、未公開株被害(最近は未上場会社の社債被害もある)について、架空の事案として紹介させていただきます。主人公は、会社をヤミの組織に乗っ取られてしまった社長さんです。

  2.  ことのはじまり
     私は、大阪で廃棄物処理を営むA社を経営しています。私がA社の経営に行き詰まっていた昨年、経営コンサルタントを名乗るB社の訪問をうけ、ファイナンスを行って資金繰りを改善させるという提案を受けました。私は研修会などに参加してファイナンスの勉強をさせてもらい、すっかりその気になってしまい、B社とコンサルタント契約を締結しました。そして、「顧問」と名乗るコンサルタント会社の従業員Xが、A社に常駐するようになりました。

  3.  株式や社債の乱発
     二〜三ヶ月経つと、XはA社の株式や社債を発行して資金調達を行い、会社の資金繰りを改善しました。おかげで経営は大変楽になりました。新しい会社法制の下、株式や社債の発行が簡単にできるものとは知らなかったので、株式や社債の発行を手掛けてくれたコンサルタント会社に感謝したものです。
     ところが、ある日、私は衝撃的な事実を知りました。XはA社の株式や社債を、お年寄りなどに騙すも同然の手口で売りつけていたのです。Xは「A社株式公開室」などという部門を勝手につくって専用電話をひき、A社の社印や私の代表印を使って株式や社債を大量に発行し、集めたお金のごく一部だけを会社に入れ、大部分は横取りしていたのです。

  4.  ヤミの世界の人々
     私は、すぐコンサルタント会社に抗議しました。すると、いかにも普通ではない服装の人たちが会社にやってきて、「社長、あんたはもう、悪事に手を染めてしまったんだよ。後ろに手が回りたくなければ、このまま続けて逃げ切るしかないよ」と脅してきました。コンサルタント会社とは名ばかり、実態は暴力団でした。あろうことか、私の会社は暴力団に乗っ取られ、お年寄りからお金をむしり取る道具にされてしまったのです。こうして、私は「未公開株」や「未上場会社社債」という消費者被害に荷担することになってしまいました・・・。

  5.  続発する被害
     このように、未公開株被害や未上場会社社債被害は、ヤミの組織が会社を乗っ取って行われています。被害実態からいうと、「投資」というより、「振り込め詐欺」に極めて近いといえます。消費者被害に遭わぬよう、そして、ご自身が加害者側にならないよう、十分に気をつけてください。
 

新法トピックス - 児童虐待防止のための親権停止制度の導入

弁護士 中村 宏

 さる5月27日民法の親権の規定について改正法が成立しました。父母の子どもに対する監護教育権を定めた規定に「子の利益のために」という文言が追加され,また父母の懲戒権についても,この範囲内でのみ認めることが明確にされました。

 改正の最大のポイントは親権停止制度が導入されることです。父母による親権の行使が困難または不適当であって子どもの利益が害されるときは,2年を超えない範囲で親権を停止できるという新しい制度です。これまで親権喪失(親権をとりあげてしまうこと)の規定はありましたが,親権をすべて取り上げてしまうことはあまりにも影響が大きいため,裁判所もなかなか認めませんでした。そこで親権を一時的に停止することを認めるかわりに,要件を緩和したのです。この親権の停止は子ども自身も申し立てすることができます。

 さらに従来は1人に限られていた未成年後見人について,複数名認められることになりました。そこで,金銭管理のため弁護士をもう一人の後見人として選んだり,法人が後見人になることもできるようになりました。

 この他にも,施設に入所中の子どもに対する親権を事実上の制限することなどの規定も盛り込まれており,児童虐待の防止に役立つ内容だと思います。

 改正法の施行は来年4月頃の見込です。

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