News & Topics

横浜合同法律事務所ニュース16

新春のごあいさつ

弁護士 畑山 穰

  明けましておめでとうございます。

  今年もよろしくお願いいたします。

  さて昨1年間の世の中の動きを振り返ってみますとき、自公連立による第2次安倍内閣が開始した暴走政治を取り上げないわけには行きません。

  昨年は、6月の東京都議会選挙、7月の参議院選挙とふたつの重大な選挙がありましたが、いずれも自民党と公明党の連合軍が快勝しました。

  他方、他の野党が振るわないなかで、真っ向から自民党の政策に異議を唱え、真に国民のためになる政治をスローガンに掲げる日本共産党がこのふたつの選挙で議席倍増の躍進を果たしました。

  年頭にあたり、この結果がどういう意味を持つのかを考えてみたいと思います。

  不況問題はアベノミクスの効果かどうか、ほの明るさが見え始めているという論調がマスコミで流されていますが、庶民感覚からすればとてもそんなところではありません。

  安倍内閣がやってきたことと言えば、貧しい人ほど相対的な負担が重くなる最悪の大衆課税である消費税の増税をはじめ、公約違反のTPP推進、危険無謀な原発の推進、低賃金を許す非正規雇用のますますの拡大、他方大企業に対する優遇税制、さらには国家安全保障会議の設置、集団的自衛権でアメリカ軍との共同作戦を可能にする憲法解釈の変更への動き、そして国民の目、耳、口をふさぐ秘密保護法という具合に何一つ国民にとってよいことはないと言ってよいほどであります。

  しかも、秘密保護法に至っては議席の数をたのんで国民世論の大反対を蹴散らしながらの強行審議であります。

  なぜこういう悪政を強行する自民党が選挙で勝利するのでしょうか。それは、まだまだ私たち国民の側が自民党のごまかしに乗せられて、つい投票の際に自民党、あるいはその助っ人である公明党の候補者に1票を投じてしまうからではないでしょうか。

  しかし、いくらひとのよい日本国民でも、こうも繰り返し騙されれば仏の顔も2度3度で、私たちのくらしと政治のかかわりの真実に目覚め始めるのは当然の成り行きであり、日本共産党の議席増大の健闘は、政治のなかのウソを見破る国民の政治的自覚がいよいよ始まったことを示すものと言えるのではないでしょうか。

  そうは言っても、政治の世界は一筋縄ではいきません。

  自民党は、国民から小選挙区制や1票の価値の不平等のからくりによりかすめとった国会の議席の数にものを言わせて、今のうちに憲法を改悪して強権的支配秩序を再構築して磐石に補強してしまおうと必死であります。

  秘密保護法の国会における強引な審議のやり方はその現れでありましょう。

  この1年は、こういう反国民的な策動と国民との矛盾、衝突がいよいよ激しくなってまいるものと思われます。

  事務所員一同、気を引き締めて国民の立場に立ち、活動して行きたいとの思いを新たにしております。

 

自由を失った国アメリカ
〜秘密保護法制の行き着く先〜

弁護士 北神 英典

  政府の秘密が拡大し、秘密漏えいに対する厳罰化が押し進められたら一体どんな社会になるのか―イラク戦争の軍事情報などを内部告発サイト「ウィキリークス」に提供したとして、去年8月米国で実刑判決を受けたマニング上等兵の事件は、そのことを示唆する格好の実例だったと言えるでしょう。


▽正義感から殺傷映像をリーク
  マニング上等兵は1987年生まれ。10歳のころに自前のウェブサイトを作るなどIT技術に通じ、米軍に入隊した後は高度な機密アクセス技術を買われ、軍の情報部に所属し、イラクの戦場で、情報分析官を務めるようになりました。

  しかし若いマニング氏が見たのは、米軍の兵士によってイラクやアフガニスタンの一般市民や記者が殺傷されるという理不尽な光景でした。愛国心と正義感にあふれたマニング氏は、葛藤の末、「人々がこれらの事実を知れば、この戦争が妥当なのかどうか広く議論されるきっかけになる」と思い立ち、膨大な軍の「最高機密(トップシークレット)」をリークすることを決意しました。

  ウィキリークスにおいて公表された、イラクの市民やロイターの記者が駐留米軍ヘリコプターに銃撃され殺傷されるという出来事の動画や外交機密文書26万件が、マニング氏が提供したものとされています。


▽判決は禁固35年
  この事件で驚くべき点の一つは、禁固35年という判決の重さです。判決時点で、すでに3年半も身柄を拘束されていたマニング氏は、最短で仮釈放の権利を得たとしても合計で11年以上も身柄拘束を受けるという計算です。

  もう一つ特徴的なのは、メディアが最高機密の報道に及び腰だったという事実です。マニング氏は、ワシントン・ポストなど名だたる大新聞社に持ち込もうとしたものの、相手にされなかったといいます。報道に伴うリスクと自分の組織の安泰と天秤にかけたであろう大メディアの保身が垣間見えるような気がします。

  判決を受けた当時、マニング氏は25歳でした。軍に入隊して10年にも満たない20歳そこそこの若い兵士が、26万件もの最高機密を扱うことができたという点にも驚きを禁じえません。


▽1日に6万件が最高機密指定
  米国政府は、最高機密を「公開されれば、国家の安全保障に比類ない重大なダメージを及ぼす事柄」と整理しています。しかし軍や政府機関があらゆる情報を次々と機密指定するようになった結果、今では1年間に米国で最高機密に指定される情報は2400万件、1日当たりにすれば6万件以上に上ると言われます。下っ端の兵士でも何十万の最高機密を扱うことになってしまいました。

  マニング氏の告発は「米国の安全保障に比類ない重大なダメージを及ぼした」ものなのでしょうか?35年間も自由を奪われなければならない不祥事を起こしたと言えるのでしょうか。

  政府の秘密が際限なく膨張し、たとえ人間としての良心や正義感に基づいた告発であろうと苛酷なまでに処罰される米国社会は病んでいると言わざるを得ません。

  日本を米国のような社会には絶対にしてはならないと感じます。

 

特定秘密保護法案の廃案に向けて

弁護士 高橋 由美

  私がこの原稿を執筆している2013年11月下旬は、まさに特定秘密保護法案が衆議院を通過しようかという時点です。この事務所ニュースが発行される2014年の新春に、この法案がどうなっているのか、現在は非常に緊迫した状況で、全く予測がつきません。

  しかし、世論の8割が強行採決に反対していますし、また、この間、弁護士会、自由法曹団などが廃案に向けて動いています。更にマスコミの中でも法案に反対する運動が大きくなってきています。ですから、きっと、世論の力で廃案に追い込めたと信じて、ご報告致します。

  この法案を廃案に追い込むことができたのは、以下にご報告するような活動や、世論の大きな「特定秘密保護法NO!」の声が大結集されたからだと思います。

  この運動やうねりを、そのまま、憲法改悪を許さない運動へとさらに発展させていけば、政府や自民党の改憲の動きを封じてしまう、大運動に発展すると思います。

  そして、もし、2014年の段階でいまだ廃案に至っていないとしたら、また、既にこの法案が成立してしまっているとしたら、日本は、非常に困難な時代に、暗黒の時代に差し掛かっているといわざるを得ません。

  しかし、この法案が知る権利を侵害し、ひいては、国民主権を蔑ろにし、また罪刑法定主義をも蔑ろにするもので、憲法違反であることは明らかです。ですから、諦めずに、希望を捨てずに、廃止目指して運動したいと思います。

  1. 自由法曹団・横浜合同法律事務所の取り組み
    (1) 自由法曹団本部での取り組み
      自由法曹団では、9月17日に「特定秘密の保護に関する法律案」について、法案提出に断固反対するとの意見を内閣官房内閣情報調査室に提出し、10月21日の団総会では秘密保護法の国会提出断念を求める決議を採択しました。

      ところが、10月25日に安倍内閣は、この法案をついに国会に提出しました。これを受けて、団本部は、11月5日には「緊急意見書 秘密保護法案 戦争のための人権抑圧立法」と題した意見書を作成し、発表しました。この意見書は、88頁にも及ぶ、秘密保護法案の逐条解説となっています。この短期間で、これだけの解説書を作成できたところに、自由法曹団の底力を感じました。

      そして、安倍内閣が、衆議院を通過させるとしていた、まさに直前、11月19日には、一般の方にも非常にわかりやすく、秘密保護法をQ&Aで開設した「こんなことでいいのだろうか 秘密保護法/日本版NSC 山積する問題(Q&A)」を発表しました。

    (2) 自由法曹団神奈川支部・横浜合同法律事務所の取り組み
      自由法曹団神奈川支部やわが横浜合同法律事務所も、法案の国会提出を受けて、緊急の宣伝行動を行いました。

      11月11日午前8時から関内駅で、事務所独自での宣伝行動を行いました。ここには所内弁護士、事務局らが参加し、関内駅を通行する市民に対し、国会議員へのFAXでの意見表明などを呼びかけました。同日午後5時半、今度は平塚駅前で自由法曹団神奈川支部として市民団体とともに街頭宣伝を行いました。3日後の11月14日には横浜駅西口において、シール投票なども交えて宣伝行動、19日には青法協の街頭宣伝にも参加、と10日間に4回の宣伝活動を行いました。そのほか、独自に地元での宣伝行動を行った弁護士もいました。

      街頭宣伝と同時に、所内では、これまでも行ってきた憲法講義をさらにパワーアップさせ、秘密保護法の学習会に弁護士を連日派遣しました。人によっては、1日のうちに学習会のハシゴをした弁護士もいました。

      日常の業務も繁多でしたが、しかし、今が頑張り時!と所内弁護士が一丸となって法案の廃案に向けてそれぞれができる活動を行いました。

  2. 日弁連・横浜弁護士会の運動
      秘密保護法反対の運動は、日弁連や全国各地の単位会、横浜弁護士会でも大きな運動となりました。弁護士さんが全国でこの法案に反対している、という運動自身と、これについての報道が、この法案に反対する世論を大きく後押ししました。また、現実に報道の自由が著しく侵害されるマスコミ各社を大きく勇気づけたものだったと思います。

    (1) 全国の弁護士会が法案への反対を表明
      10月30日の新聞報道によれば、日本弁護士連合会と、全国52の弁護士会全てが、法案に反対する意見書や会長声明を出しましたし、阿部内閣が秘密保護法案の概要を発表した9月上旬から10月下旬までには、再度、21の単位会が法案への反対を表明しています。さらに、国会での強行採決が現実となった、11月24日現在、新たに、横浜弁護士会、島根県弁護士会、山形県弁護士会なども再度の反対声明を出しました。

      日弁連は、独自のリーフレットを発行するほか、秘密保全法性対策本部を置き、そのホームページで秘密保護法の問題点などを紹介し、また全国の弁護士会のイベント情報を集約しています。さらに、11月13日には、ツワネ原則に即して秘密保全法性のあり方を全面的に再検討することを求める会長声明を発表しました。

      また、11月に国会で審議入りすると、全国各地の弁護士会で、法案に反対するデモや街頭宣伝などが行われました。

      大阪弁護士会では、弁護士ら600人で反対のパレードを行い、また京都弁護士会は、連日、街頭宣伝を実施し、地元選出の国会議員への要請を行いました。愛知弁護士会は、スピーチ集会と200人でのデモを行いました。札幌弁護士会も街頭運動にいち早く取り組み、埼玉弁護士会もデモを主催し弁護士や市民ら300人が参加しました。

      法案の衆議院通過がいよいよ緊迫した、11月21日には日比谷野外音楽堂で大集会が開かれ、ここには、日弁連の対策本部長代行ら弁護士が多数参加し、法案に反対する国会議員らとともに、絶対に法案を阻止するとの決意を述べました。なお、この集会は、全国13か所で行われた集会の一環で、非常に多くの方が参加したので、私や高橋宏弁護士、近藤弁護士、清水弁護士らは、会場に入りきれず、会場外を取り巻いてさらに集会を盛り上げたというエピソードがついています。

      このように、全ての取り組みを指摘するのは困難な程、全国各地で弁護士が、法案反対の声を一斉に挙げたのです。

    (2) 横浜弁護士会の動き
      横浜弁護士会は、2012年4月に、民主党政権が秘密保全法案の国会提案を検討した際、この法案が、国民主権を支える国民の知る権利を甚だしく侵害し、民主主義の過程を深く傷つける恐れがあるとして、反対の意見を表明していました。

      そして、政府が10月25日に特定秘密の保護に関する法律案を国会に提出したことを受けて、再度、横浜弁護士会は、この法案に強く反対し、今後、本法案に反対する様々な取り組みを行う決意である、との声明を11月13日に仁平会長名で発表しました。

      この声明は、横浜弁護士会でも早速実施されました。声明に先立って、11月5日朝8時から関内駅南口において、11月20日には、昼休みの横浜公園で弁護士約50人が集まり、市民に向けて街頭宣伝活動を行いました。横浜合同法律事務所の弁護士も当然、多くが街頭宣伝に参加しています。そして、11月26日、12月5日には、それぞれ桜木町駅前、横浜高島屋前での宣伝行動が予定されています。

      この弁護士会の街頭宣伝の全てに仁平会長自らがマイクを握って市民に法案の危険性を訴え(おそらく第3弾、4弾もそうなると思います)、神奈川新聞やTVKがこの取り組みを大きく取り上げました。

  3. 終わりに
      このように、日弁連をはじめ、全国各地の弁護士が法案の廃案に向けて声をあげ、所内の弁護士もみな、自分にできる範囲で法案の廃案に向けて活動しました。

      私も、連日の学習会、集会参加で、正直なところ、睡眠時間を確保するのが困難でしたが、それでも、こんな法律を通してはいけない、との思いで怒涛の数週間を過ごしてきました。

      この法案が世論の大きなうねりを受けて、必ず廃案になっていると信じています。

 

神奈川県共同センター、立ち上がる!

弁護士 浅川 壽一
  1. 神奈川県共同センター再開
      神奈川県共同センターの活動が、再び始まりました。神奈川県共同センターは、憲法改悪反対神奈川県共同センターといい、神奈川労連に設置されています。憲法改悪に反対する活動の、司令塔または情報センターというべき役割を担っています。神奈川県共同センターが設置されたのは、2006年10月29日。時は、第一次安倍内閣が組閣され、様々な改憲策動へ突き進もうとする情勢でした。そのころ、私たち護憲の力を結集しなくてはということで立ち上がったのです。ところが、その後安倍内閣が倒れ、憲法改悪への策動が沈静化したとみられたことから、次第に共同センターの活動も縮小していったのでした。しかし、またしても安倍内閣が復活、憲法が脅かされる危険が生じため、神奈川県共同センターが再起動したのです。

  2. 憲法会議との役割分担
      ワタクシが事務局長を務めます、神奈川憲法会議という組織があります。これも、護憲活動のセンターとしての役割を担っています。神奈川憲法会議も神奈川共同センターのメンバーであり、神奈川憲法会議と協力しながら、改憲と戦う活動を行っています。主な役割分担を説明しますと、平時においては憲法会議が前に出ていて、改憲の策動や護憲の仲間の動きなどの情報を伝え、学習会を開催します。これが、すわ憲法の危機という事態に入ると、共同センターが立ち上がり司令塔として様々な運動を開始することになります。神奈川では、憲法会議が情報センター、共同センターが有事の際の司令塔と言う形になるでしょうか。神奈川憲法会議の代表委員と事務局長は、神奈川共同センター事務局の一員であります。地域によっては、共同センターと憲法会議が一心同体となって活動している場所もあります。

  3. 安倍改憲策動
      さて、安倍政権が打ち出し、または継承している各政策であるTPPへの参加、教育改革、選挙制度改革、国家安全保障会議設置、秘密保護法、経済特区の設置、労働法制の変更、日米軍事同盟強化、集団的自衛権解釈見直し等、一見それぞれはバラバラの政策に見えます。しかし、これらはすべて改憲(明文改憲、解釈改憲、立法改憲)への道筋をつけようとしている各ステップに他なりません。全体像は、「アメリカと一緒になって戦争をする国づくり、憲法が大切にしている価値を壊して行く国づくり」に他なりません。私たちは、力を合わせ、安倍内閣による改憲策動に対峙していきましょう。
 

TPPは国民主権を破壊する
〜ISD条項を知っていますか〜

弁護士 近藤 ちとせ

  明けましておめでとうございます。みなさまのお手元にこのニュースが届く頃には、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉が、参加国の間で妥結され、通常国会で批准の採決の段階に入っているかもしれません。

  TPPのような条約は、交渉国による妥結だけでは成立せず、衆・参両議員による批准の採決を経て発効します。本当に、TPPを発効させて良いのでしょうか。

  TPPと言えば、農業に対する影響が大きく取り上げられています。もちろん、日本の農業が破壊されれば、食糧自給率が下がって国力が弱体化する、食の安全が脅かされるなど、私たちの生活に直結する重要な問題があります。

  しかし、TPPの問題は、農業だけではありません。私たち弁護士は、法律家の立場から、ISD条項の問題や、保秘契約の存在もまた非常に深刻であると感じています。

  1. ISD条項とは
      ISD条項(正確には、ISDS条項ですが、ここでは一般的に呼ばれているISD条項を使います)とは、参加国の政府がTPPに定める投資協定という合意に違反した場合に、それによって損害を受けた投資家が、直接政府に対して損害賠償請求をすることを認める制度です。

      これだけを聞くと、投資家が合意に違反した政府を訴えて何が悪いの?と思われる方もいるかもしれません。そこで、この制度の問題点を具体的に説明します。

    @ ISD条項で提訴対象となる政府の行為が極めて広い
      ISD条項によって訴えられうる政府の行為は、制度、慣行、事実行為、裁判所の判決などが広く含まれています。

      つまり、日本国民が支持する法律や、日本の裁判所がなした判断などがTPPの投資条項に反すると損害賠償の対象となるのです。

      これまで外国で起きた実際のケースを見ると、その問題点はわかりやすいかもしれません。例えば、スウェーデンのバッテンファル社がドイツ政府を訴えた事件です。これは、ドイツが脱原発のために改正した原子力法について、スウェーデンの国有電力会社バッテンファルが、ドイツ国内で運営するクリュンメルとブルンスビュッテル原子力発電所が、原子力法改正によって運転停止に追い込まれ、多大な経済的損失が発生したとして、国際紛争解決センターに訴えたケースです。

      ドイツの国民が支持して実現した脱原発という国策について、原発を輸出する企業が、その会社の利益を害することを理由に損害賠償請求をする。なにか違和感を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

    A 国民主権から多国籍企業主権へ
      このような違和感は、憲法の定める国民主権原理と反することから生じています。

      国民主権原理について、少し説明をさせてください。

      日本国憲法は、「国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」(前文)と規定すると共に、国民の代表機関である国会を「唯一の立法機関」(41条)であると規定し、国民主権原理を採用しています。つまり、憲法は、国民主権原理により、国家の政治のあり方を決定する権力と権威は国民にあると規定しているのです。

      ところが、先ほどのドイツの原子力法の事例からもわかるように、ISD条項は、この国民主権原理と明らかに対立しています。つまり、仮に国会が国民の民意を受け、脱原発などの政策を採ったとしても、それが原発施設を日本に売り込んだ企業の利益に反する等の理由から損害賠償をしなければならないとすれば、国民がその国の政策を決めるに際して、投資家の利益に反しないかを常に考慮しなければならなくなります。これでは、国民主権について、「投資家の利益に反しない限り」という例外を設けるに等しく、多国籍企業主権を認めることになってしまうのです。

    B 裁判所ではない私設機関が裁判を行うこと
      また、もう一つISD条項について問題なのは、判断をするのが、参加国の裁判所でも、司法機関でもなく、世界銀行の内部機関である「紛争解決処理センター」という私設機関であるということです。この「紛争解決処理センター」は、当事者が選んだその場限りの裁判官が仲裁を行うとされており、正式な裁判所への上訴の手続も認められていないのです。

      日本国憲法76条は、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と規定し、裁判は裁判所が行うことを規定しています。重要な国策にも関わる裁判を、裁判所以外の私的な機関が行うというISD条項は、この憲法76条に違反するのです。

  2. 交渉内容が秘密
      TPPはこんなに重要な問題をはらんでいるのに、私たち国民にはそのことがほとんど聞こえてきません。これは、保秘契約というものが原因です。

      TPP交渉参加に際し、日本政府は交渉参加国との間で交渉内容を秘密にするという保秘契約を結びました。そして、保秘契約を理由に、交渉の内容がほとんど国民に明かされないままに、まるで他人事のような頭越しの交渉が進んでいます。

      これでは、妥結が終わるまではTPPの全容が見えないばかりか、全容が見えたときには、拙速な国会審議で強行採決へ一気に踏み切られてしまう危険が非常に高いと思います。

      国民に情報も開示せずに、官僚同士で交渉を重ね、頭越しに条約でこのような重要な事項を決めようとすることは、国民の知る権利、国民主権原理をないがしろにするものと言わざるを得ません。

      それでも交渉は進行しています。年明けにTPPが国会へ上程されたときには、みんなでしっかりその内容を吟味しましょう。
 

福島原発損害賠償請求訴訟

弁護士 鈴木 啓示

福島原発被害者支援かながわ弁護団
  福島原発被害者支援かながわ弁護団は、主に原発事故から神奈川県内に避難している被害者が被った被害について、東電に対して、損害の完全賠償を要求し被害者に寄り添いながら、その実現のために活動しています。弁護団員は、横浜弁護士会に所属する弁護士約130名です。福島原発事故による神奈川県内への避難者は約2500人ですが、内約260名が弁護団への相談に来ています。

  これまで弁護団は、主にADR(原子力損害賠償紛争解決センター)への申立を中心に、東電に対する損害賠償請求をしてきました。しかし、その解決水準は極めて不十分なものといわざるを得ませんでした。例えば、警戒区域内被害者は、ふるさとを追われて遠隔地での過酷な避難生活を余儀なくされているにもかかわらず、その避難慰謝料は、月額一律10万円と自賠責保険と同等の扱いしかされていません。不動産ついては、事故前の固定資産評価額を基準にして、その2分の1又は3分の1しか賠償されません。これでは、新たな地で生活を再建しようにも、不動産の再取得ができません。

  原発事故の被害者は、不完全な賠償のまま切り捨てられ、泣き寝入りさせられようとしているのです。


訴訟提起へ
  そこで、弁護団と神奈川での避難生活を強いられている44名の被害者は、原発事故から2年半が経過した平成25年9月11日、東電と国を被告として、横浜地裁に損害賠償請求訴訟を提起しました。

  訴訟の目的は、人類史上空前の被害をもたらした本件事故の原因と責任を明らかにし、もって原告らの被った損害の完全な賠償を求めることです。

  請求の内容は、@避難に伴う慰謝料、A生活を破壊され、ふるさを奪われたことに対する慰謝料、不動産損害等の個別の損害賠償、の3項目です。

  この訴訟に、東電だけでなく国を被告に加えたのは、国は、これまで「原発の損害は電力会社のみが責任を負う」という特別法の陰に隠れて、何ら責任をとろうとしなかったため、国に対しての責任も追及しなければ原発事故の真の救済は得られないと考えたからです。

  このような国と東電を相手にした訴訟は、福島県はもちろん、避難者がいる全国各地で提起されています。

  わたしたちかながわ弁護団も、今回の提訴にとどまらず、国と東電に責任追及をしたいという被害者の声を受け止めて、第2陣、第3陣の提訴を予定しています。

  また、原告団も組織して、さらなる原告の拡大と被害者の連帯・支援のための活動をしています。

  福島原発事故を風化させないためにも、是非この訴訟を応援して下さい。

 

オンブズマンが横浜市のムダ遣いを問う
〜横浜市新庁舎移転住民訴訟〜

弁護士 石ア 明人

  かながわ市民オンブズマンは、平成25年9月27日、横浜市長を被告として、@「新市庁舎整備基本構想」に基づき横浜市中区北仲通南地区に新市庁舎を建設することを目的とする公金の支出、及びAそのための地方債の発行、の差し止めを求めて横浜地方裁判所に訴えを提起した。この事件をごくかいつまんで紹介する。


事案の概要
  現在、横浜市庁舎は老朽化し、十分な執務スペースを確保する為に民間ビルから借り上げをしている状況にある。

  そこで横浜市は約603億円を投じて新市庁舎を建設しようとしている。元々横浜市が選択肢として検討していたプランは複数あり、中には耐震工事を済ませたばかりの現行の市庁舎を整備することで約398億円の経費ですませることが可能なものがあった(ここでは便宜上「プラン@」とする)。

  そんな中で、横浜市が選択した約603億円の費用を要するプラン(ここでは便宜上「プランA」とする)が地方財政法4条1項で禁じられる「その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえ」たもの、すなわちムダ遣いではないかを問うのがこの訴訟である。

  同時に、この訴訟は、このプランAの前提となる土地譲渡契約が地方自治法214条に反し無効なものではないかを問題としている。


URとの土地売買契約
  プランAの市庁舎移転先は元々URの土地であった。

  横浜市は、中田前市長時代に、URとの間で、この土地を譲り受ける契約を結んだ。ところが、この契約は土地売買だけにとどまるものではない。

  この契約は土地の譲渡だけでなく(1)横浜市がこの土地上に地上41階地下3階の超高層ビルを建てることを約束する。(2)土地の代金の支払いにも関わらず、土地の所有権は、この超高層ビルが建ったことをURが確認したら初めて横浜市に移る。という内容を含んでいたのである。


この契約がプランAを導いたこと
  プランAを選択した横浜市側の言い分を簡単に言うとこうなる。

  「URと約束してしまった以上、いずれにしろこの土地上に超高層ビルを建てなければいけない。だとすれば、その超高層ビルをそのまま市庁舎として使えるプランAの方が結果的に安上がりである。プラン@だと現在の市庁舎を整備した上で別途超高層ビルを建てることになるから、全部で1100億円もかかってしまうし、移転に時間がかかる。」


地方自治法214条違反の債務負担行為
  このURとの土地譲渡契約は、「その土地上に建物を建てる」という義務を負担することまでが内容となっていた。ところが、横浜市議会で予算としてあげられたのは、土地の売買代金のみである。建物の建築という債務負担行為については、予算で定めることが要求されているはずなのに(地方自治法第214条)、定められていない。

  予算の議決を欠く債務負担行為は無効である(最判昭和35年7月1日、最判昭和44年9月11日)。従って、少なくとも横浜市がプラン@のために取得するという土地上に超高層ビルを建てる義務は存しない。

  つまり「どちらにしろURから買った土地上に建物を建てなければいけないからプランAの方が結果的に安い」とは言えないはずなのである。

  訴訟はまだ始まったばかりである。この本案部分についての横浜市長側の答弁は、「そもそもこの訴訟は未だ不確定の行為の差止めを求めるもので、訴訟として認められない」、中身の問題については「プランAを選択したのは費用の問題に尽きるわけではなく、総合考慮の結果だ」というものである。

  この答弁もまた詭弁であることを明らかにしていく。

  
 

日産非正規派遣切り裁判、結審に

弁護士 田井 勝
  1.   日産非正規派遣切り裁判が、平成25年11月21日に結審となり、今年3月25日、判決を迎えることとなりました。このことについて報告させていただきます。

      この裁判は、平成21年3月末、リーマンショックによる経営不調を理由として、日産自動車が、同社グループの国内約8000人もの非正規労働者を解雇したことに対し、同社及び同社グループの日産車体で働いていた期間社員・派遣社員が、その解雇無効を求めて訴えたものです。


  2.   本訴訟では、派遣社員の派遣先に対する地位確認請求(派遣社員と派遣先会社(日産)との間に労働契約が成立する)という主張を行っている点が特徴的です。

      本訴訟の提起後、最高裁判所から、派遣社員の派遣先に対する地位確認を否定する判決(いわゆる「松下PDP最高裁判決」:平成21年12月18日)が出されました。これに対し、我々原告らは、「この松下PDP最高裁判決をもってしても、本事例では派遣先に対する地位確認が認められる」と主張し、日産自動車の違法・脱法行為を主張してきました。

      また、平成25年3月13日山口地裁において、派遣先に対する地位確認を認めた画期的な判決がでました(いわゆる「マツダ判決」)。我々原告らも、このマツダ判決に続けとの思いで、頑張ってきました。


  3.   本件裁判において、我々は、「日産の働かせ方は『偽装派遣』だ」と主張してきました。派遣労働とは、派遣先会社が、「他社(派遣会社)」の社員を、「一時的・臨時的」に働かせるものです。

      でも日産は、派遣社員である原告土谷さんや阿部さんのケースにおいて、原告らを「自社」の「正社員」のように取り扱うべく、彼らが派遣会社と契約する前に、自らで採用面接をして受け入れを決定したり、原告らの賃金などの労働条件を独自に決めたり、派遣会社の36協定をも無視して恒常的に残業労働をさせたりしてきました(その結果、原告らは年間400時間を上回る残業をさせられていました)。

      また、原告岡田さんのケースでは、派遣法上の派遣可能期間(1年)への抵触を防ぐために、派遣社員↓期間社員↓派遣社員、と地位の変遷をさせ、約5年間も恒常的に働かせてきました。

      このような働かせ方は、法が予定している本来の派遣労働に当たらず、ゆえに、形式上の契約(派遣契約)を無効とする特段の事情があり、派遣先日産との間に直接の労働契約が成立している、と主張してきました。


  4.   日産のCEOであるカルロスゴーンは、平成21年3月末に原告らを含む労働者を大量解雇する一方、その年の自らの役員報酬を、前年より増加させました。また、日産車体は、同年3月末に雇止めした翌月の4月、他者から雇止めした労働者と同じ数の人員を受け入れています。

      今回の解雇について何ら合理的な理由などあるはずもなく、企業側の都合による一方的な切り方は、許されるものではありません。


  5.   結審時の最終弁論において、原告土谷さんから「自分たちのような働かせ方を未来の子供たちにもさせたくない。その一心で裁判を闘い続けている」との発言がありました。これは原告、弁護団、この裁判を支えている運動体の共通の思いです。最後まで頑張って行ければと思います。
 

3・18結審 資生堂非正規切り事件

弁護士 高橋 宏

  本年3月18日、2009年5月末に資生堂鎌倉工場で非正規切りにあった原告7名の資生堂非正規切り事件が、いよいよ、結審を迎えます。

  この裁判を通じて、様々なことが明らかになりました。

  原告らは、2000年から2009年にかけて、プレミアライン、コラボレート、アンフィニと、形式的な労働契約の相手方が次々に変わる中で、一貫して、資生堂鎌倉工場において、口紅製造の仕事をしてきました。資生堂との関係も、下請け会社の従業員という立場であったり、派遣社員という立場であったり、「完全請負化をめざす」状態であったりと様々でした。しかし、その働きぶりに大きな変化は無く、原告ら自身は、終始、派遣社員として資生堂鎌倉工場で働いていると認識していたような状態でした。

  原告のうち池田さんは、製造業派遣が解禁される以前である、2000年から、このような状態で働いてきており、そのこと自体が問題でした。また、2006年には、コラボレートの「偽装請負」が、大きく社会問題化することが予想される状況となりました。

  このため、資生堂は、その前に、コラボレートを撤退させる一方で、熟練化し、鎌倉工場の製造にとって無くてはならない存在になっていたコラボレートからの労働者約100名については、引き続き資生堂鎌倉工場の労働者として確保することを決めました。とはいっても、それは、資生堂の社員として契約するのではなかったのです。

  資生堂は、自ら手配した派遣会社に労働者を移し、口紅製造部門は茨城県の業者であるアンフィニに、化粧水製造部門は他の業者に労働者を移し、その上で資生堂鎌倉工場において、派遣ないし請負労働者として働き続けるということとしたのでした。

  そして、コラボレートには寝耳に水の状態で、4月中旬に、5月末をもって同社との契約を終了させることを通知する一方、5月初旬には、アンフィニ外が、コラボレートの撤退と言うことで動揺する原告らを含む約100名の労働者に対し、コラボレートの後を引き継ぐことになったから心配ないと説明して、コラボレート時代と、同じ役職と同じ賃金で雇用し、同じグループ編成のまま、6月1日からの口紅製造作業を、滞りなく進めていたのでした。

  また、アンフィニに口紅製造の経験が全くなかったことから、当初は、請負ではなく派遣とし、その後は請負になったとのことでした。

  しかし、現場では、プレミアライン・コラボレート時代から2009年の雇い止めに至るまで、終始一貫して、資生堂による指揮命令が続けられ、それも、製造ラインにつくまでに「最低1ヶ月」はかかるとされる資生堂の教育を経て、資生堂からの仕様書に細かく定められた作業工程と作業方法にのっとり、そればかりか、「品専(ヒンセン)」と呼ばれていた資生堂の社員が、見回りをし、文字通り、一挙手一投足を資生堂がチェックするという状態でした。

  2009年も3月までは、下請け会社であるアンフィニが、増産体制を続け、新規社員も採用するという状態であり、資生堂の2009年6月の株主総会では、前年の1・5倍に増配した配当をしたという状態でした。その中で、4月の資生堂からの受注量が減ったということで、原告らが、突然、アンフィニによって整理解雇されたのでした。

  それでも、資生堂は、自社の社員では無いから雇用責任はないと言い続け、労働組合との団体交渉にも応じようとしません。これが「人に優しい」「おもてなしの心」を社是とし、「美」を売り物とする資生堂の実態なのであり、呆れるばかりです。

  本年の結審・判決に向け、一層のご支援をお願いいたします。

 

最低賃金裁判の現状と今後

弁護士 清水 俊
  1.   事務所から横浜地方裁判所への道すがら、老後に備えるための保険のチラシを受け取りました。そこには、公益財団法人生命保険文化センターの生活保障に関する調査結果として、60歳以上の2人世帯の最低日常生活費22・3万円、ゆとりのための生活費36・6万円(上乗せ分14・3万円)と書かれていました。

      やはりそれくらいないと生活できないよなぁ…と自分の老後を想像するとともに、11月27日に行われた最低賃金裁判の期日を思い出しました。


  2.   最低賃金裁判とは、生活保護と最低賃金とが時給換算で逆転してしまっている現象を受け、働いても食べていけないような最低賃金は違憲・違法だとして少なくとも1000円以上にするよう求めている行政訴訟です。

      被告国はもちろん最低賃金の決定過程に違法はないと主張していますが、その一方で様々な理由でこの訴訟自体が不適法だとして請求却下、つまりは「門前払い」を求めています。その中の一つとして、単なるお金の問題だから原告に重大な損害は生じていない、だから裁判をする必要はない、と主張しています。


  3.   すでに提訴から2年半がとうとしている最賃裁判では、原告が毎回の法廷で意見陳述を行い、苦しい生活実態を赤裸々に訴えてきました。

      タクシー運転手として毎月200時間以上の深夜早朝の長時間勤務を余儀なくされ、その無理がたたって体を壊してフルタイムで働けなくなり、生活保護を受けている原告もいます。また、多くは非正規社員でフルタイムで働くこともままならず、仕事を2つ3つ掛け持ちする原告もいます。しかし、900円前後の最低賃金ギリギリの時給では、生活のほとんどを労働に充てても月収はせいぜい13、4万円程度にしかなりません。休みが多い月になると10万円を切ってしまうときもあります。

      小さな子供をもつ原告は、収入が低いことで教育の機会が奪われていることに心を痛めています。親の低賃金・定収入のしわ寄せが教育の機会の喪失や奨学金などの借金という形で子に受け継がれてしまっています。

      原告の中には若い独身の男女もいますが、将来に希望を持てず、自立や結婚・出産をあきらめざるを得ない状態です。交際費も極力削るため、冠婚葬祭や飲み会などにも参加できず、次第に孤立していってしまいます。

      このような原告の苦境は、国の主張する、単にあとでお金で精算すれば済む事柄なのでしょうか。そんなはずはありません。

      原告はすでに100人を超え、さらに原告候補者が集まってきている状況です。


  4.   平成25年10月20日付けで全国の最低賃金が改定され、神奈川県の地域別最低賃金も19円アップし、868円となりました。厚生労働省は、神奈川県での生活保護と最低賃金の乖離額は9円としていたため、これで「解消された」ということになります。現にそういう報道もされています。

      しかし、国は生活保護を時給に換算する際にできる限り低くしようとして嘘やごまかしをして計算しています。この計算方法のごまかしを明らかにすることが最賃裁判の本質です。今後、このことを明らかにするために学者などに対する証人尋問を行っていくことになります。

      今後は、国のごまかし・嘘について世間に知らせていくとともに、現在神奈川県でしか行われていない最賃裁判が全国各地で次々と起きていくような運動の広がりが重要だと考えていますので、そのためにもこの神奈川での最賃裁判のより一層充実させていかなければならないと決意を新たにしています。
 

東京高裁での審理始まる
〜建設アスベスト訴訟〜

弁護士 田渕 大輔
  1.   建設作業に従事する中でアスベスト粉じんにばく露し、肺ガンや中皮腫などの健康被害を受けた建設作業従事者が、国と建材製造企業に対して損害賠償を求めている建設アスベスト訴訟は、2013年10月15日に東京高裁で第1回口頭弁論期日があり、ようやく控訴審での審理が始まりました。

      2012年5月25日に横浜地裁で全面敗訴の判決を受けてから、東京高裁での審理が始まるまで、1年以上の時間が流れました。この間、2012年12月5日には、横浜地裁での訴訟と同じく、建設作業従事者が国と建材製造企業を被告として訴えている東京地裁での訴訟において、国に損害賠償を命じる判決が下されています。


  2.   アスベストが人体に有害な物質であることは、20世紀を通じて、極めて多くの報告が行われてきました。そして、1972年の時点ともなれば、ILOやIARCといった国際機関においてもアスベストの発ガン性は明確に認められ、アスベストが人体に有害な物質であるということは、誰も否定できない状況になっていました。

      我が国でも、1975年には、アスベストの発ガン性を前提として、国はアスベストを他の物質に代替化していくことを、努力義務という中途半端な形ではありますが定めました。ところが、我が国では、アスベストの使用量が減少することはなく、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ(当時は西ドイツ)といった主要先進国が、1970年代以降、着実にアスベストの使用量を減らしていたのと対照的に、我が国は1980年代後半にアスベスト使用量の第2のピークを迎えたのでした。


  3.   その背景には、安価なアスベストを使用し続けたいという企業の論理がありました。企業は、アスベストの危険性が揺るぎないものになってからもアスベストを大量に使い続け、国も、アスベストの使用について、厳格な規制を講じることを怠り続けました。

      アスベストは、わずかな量を吸い込むだけでも肺ガンや中皮腫の原因となる危険な物質であり、そのような危険性も1970年代には既に明らかになっていました。しかし、国や企業は、大量に吸い込まなければアスベストによる健康被害は生じないとし、国の規制も、わずかな量を吸い込むことであっても阻止するという姿勢での規制とはなっていませんでした。


  4.   アスベストによる健康被害は、被害者の数や、被害の悲惨さなどから、戦後最大の公害の一つであると言われるようになっています。そして、我が国に輸入されたアスベストの約7割が建設資材に使われたことから、建設産業で働いてきた人たちが、最大の被害者集団となっています。

      国や企業が経済効率を優先した結果、多くの人の命や健康が損なわれるという公害の図式を、これ以上、繰り返させてはなりません。未来の被害を防ぐという意味でも、過去に起きてしまった被害について、国や企業に責任を取らせることは必要不可欠なことです。

      その意味では、横浜地裁の判決が、国や企業の責任を全く認めなかったことは、原告たちに生じている被害を放置したというだけでなく、未来に対する責任をも、裁判所が放棄したに等しいものでした。

      東京高裁では、不当な横浜地裁の判決をひっくり返し、今度こそ、アスベストによる健康被害を根絶させることにつながる判決を勝ち取りたい、そう強く願っています。
 

第4次厚木基地爆音訴訟“結審”判決へ

弁護士 関守 麻紀子

  2013年9月2日、第4次厚木基地爆音訴訟の浜地裁での審理が結審しました。

  2007年12月に提訴し、7000名を超える大勢の原告が、約6年にわたり、裁判を戦ってきました。

  厚木基地の軍用機、とりわけ米軍ジェット機が発する爆音は凄まじいものです。軍用機の部品が落下する事故も度々起こりますし、何よりも、軍用機が墜落する危険もあります。

  神奈川県県央という住宅地で、軍用機が飛行したり、訓練を行ったりすることは、住民の権利を侵害するものですし、そもそも、住宅地で危険な飛行訓練を行う必要もないものです。

  原告らは、本訴訟で、米軍機、自衛隊機の夜間飛行、訓練飛行、70dB以上の騒音を発する飛行(行政訴訟ではWECPNL75を超えることとなる飛行)の差止めと、航空機騒音により被っている損害の賠償を求めました。

  本訴訟では、注目して頂きたい争点はいくつもありますが、そのうちの何点かを紹介します。


民事訴訟か行政訴訟か
  厚木基地訴訟では、第1次訴訟最高裁判決が民事訴訟による飛行差止請求は不適法であると結論づけ、門前払いをされてしまった経緯があります。そのため、第4次訴訟では、民事訴訟と行政訴訟と、2つの訴訟を提起して差止めを求めています。裁判所が形式論で切り捨てることなどできないようにするためです。民事ではだめ、行訴でもだめ、などという判断をすることは許されません。裁判を受ける権利が保障されないことになるからです。

  最高裁判決を覆して民事訴訟適法とするのか、基地訴訟は行政訴訟で、という途を開くのか。裁判所の判断が注目されます。


米軍に対してはものが言えない、などというはずはない
  これまで、全国の基地訴訟において、米軍に対する差止請求は、米軍には日本の支配は及ばない、という理屈で、退けられてきました。これまでの厚木基地訴訟でも同様でした。

  しかし、厚木基地の滑走路がある区域は、地位協定2条4項bが適用され、日本に管理権があること、米軍には使用目的が定められていること、が明らかになっています。

  日本は、米軍に対して、使用目的に反する使用や、日本国民に害を及ぼすような使用を禁ずることができるし、そうすることが国民に対する義務です。

  厚木基地の法律関係を正しく理解して頂かなければなりません。


航空機騒音による健康被害
  軍用機の騒音には、音があまりにも大きく、金属的で、その発生が予測できない、という特徴があります。軍用機の騒音により、高血圧や虚血性心疾患といった疾患、子ども対する悪影響、睡眠妨害など、さまざまな健康影響が生じることは、これまでに積み上げられてきた国内外の調査研究により明らかにされていますし、WHO(世界保健機関)も1999年、2009年、2011年、と相次いで見解を公表しています。

  第4次訴訟では、松井利仁京都大学准教授(当時)が、WHOが示した算定方法に従い、厚木基地周辺における健康損失の量を算出したところ、軍用機の騒音により住民の健康に多大な影響が生じていることが明らかになりました。

  しかしながら、被告国は、1970年代の論文を引用して、「航空機騒音については、人の身体ないし精神面に影響が及ぶことは一般的に否定されている。」などと強弁しています。国の主張は、あまりにも常識はずれではないでしょうか。


何十年も変わらない損害賠償の額
  損害賠償の額は、地域のうるささの度合いによって差がつけられており、月額3000円〜12000円というのが、昨今の水準です。しかし、この額は、昭和51年に提訴した第1次訴訟以来、ほとんど変わっていません。この間、物価は上がり、給与額、交通事故や名誉毀損などによる慰謝料の額も、増加しています。ちなみに、思いやり予算の額は、昭和53年には63億円でしたが、最近では2000億円にも達しています。

  このような状況の中、基地被害の慰謝料だけが、旧態依然として変わらないというのはおかしな話であり、本訴訟では、社会情勢の変化に対応した、正当な額の慰謝料の支払いを求めています。


  神奈川県という人口密集地のどまんなかに米軍基地があり、爆音をまき散らし、部品を落下させ、住民を墜落の恐怖に陥れている。このような実態を許しておくことはできません。

  判決言い渡しは、2014年4月に予定されています。ぜひご注目下さい。

 

国立(くにたち)景観求償訴訟

弁護士 中村 晋輔

  東京都国立市の元市長であった上原公子さんが、国立の大学通りの景観にそぐわないM社の14階建てマンション建築問題を巡る対応に関して、国立市から約3123万円と遅延損害金の支払いを求められる訴えを東京地裁に起こされました。昨年9月19日に結審して判決言渡期日が昨年12月24日と指定されましたが、その後、判決言渡期日が延期されました。

  M社のマンション建設をめぐっては、建物の高さ20メートルを超える部分は建築基準法に適合しない違法建築物にあたるとの東京高裁の判断、建築指導事務所長が是正命令権限を行使しないことが違法であることを確認するとの東京地裁の判決、建物の高さ20メートルを超える部分を撤去せよとの東京地裁の判決、さらには、最高裁の景観利益は法律上保護に値するとの判断も出ました。M社が国立市を被告とした訴訟は、東京高裁が建物の高さを制限する地区計画と条例を適法として、既存不適格による3億5000万円の請求を棄却したものの、信用毀損等2500万円の損害賠償の支払を命じました。国立市はM社に賠償金を支払い、M社が同額を国立市に寄付して、決着済みとなったはずでした。

  にもかかわらず、国立市が支払った賠償金を元市長に求償せよと一部住民が起こした住民訴訟において、国立市が一審で敗訴しました。その後、市長の交替があり、新市長が控訴を取り下げて国立市の敗訴判決が確定してしまったことにより、上原さんが国立市から訴えられたのです。

  今回の訴訟の原告である国立市は、上原さんの行為について、市長に要請される中立性・公平性を逸脱して、M社に対する営業妨害であったと主張しています。しかし、市民に対する証人尋問を通じて、市民が自発的に地区計画案を作成したことが明らかにされました。当時の市長であった上原さんは、市民、市議会、審議会の意向を受けた「オール国立」の状況の中で、M社のマンション建築問題に対応したのであり、個人として損害賠責任を負うべきでありません。この訴訟は、住民自治が問われている訴訟です。上原さんに支払を命じられる判決が確定しないよう、がんばってきたいと思います。

 

ヘイトスピーチ(憎悪や差別を煽る表現を伴う言論)に
対する京都地裁の判決

弁護士 宋 惠燕
  1.   2013年10月7日、京都地方裁判所は、在日特権を許さない市民の会(以下「在特会」といいます)等が、2009年12月から2010年3月にかけて、京都朝鮮第一初級学校に対しておこなった示威活動およびネットでの映像公開について、業務妨害及び名誉毀損にあたるとして不法行為を認め、かつ、人種差別撤廃条約の「人種差別」に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償責任と街宣活動の差止めを認めました。


  2.   この京都地裁の判決の元となった事件では、小学生が授業を受けている最中に、在特会のメンバーらが学校に押しかけ、「日本からたたき出せ」「キムチ臭いで」「約束というのはね、人間同士がするもんなんです。人間と朝鮮人では約束は成立しません」「保健所で処分しろ、犬の方が賢い」「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島へ帰れ」「糞を落としたらね、朝鮮人のえさになるからね、糞を落とさないでくださいね」「朝鮮メス豚」「朝うじ虫」「ぶち殺せー」などという聞くに堪えない罵声を長時間にわたって浴びせました(当然のことですが、この事件においては、メンバーらは威力業務妨害罪、侮辱罪、器物損壊罪の有罪判決が下されました)。


  3.   京都地裁判決では、これらの在特会らの発言については、「下品かつ侮辱的」であって「在日朝鮮人が日本社会において、日本や他の外国人と平等の立場で生活することを妨害しようとする発言であり、在日朝鮮人に対する差別的発言」と認定し、「在日朝鮮人という民族的出身に基づく排除であって、在日朝鮮人の平等の立場での人権及び基本的自由の享有を妨げる目的を有するものといえる」として、日本が加入している人種差別撤廃条約1条1項の「人種差別」に該当すると判示しました。

      そのうえで、本件判決は、在特会らの名誉毀損行為について、「専ら公益を図る」目的でされたものとは到底認めることができないとし、また、在特会らが、意見や論評であるとして責任がないと主張した点についても、「意見や論評というよりは、侮辱的な発言(いわゆる悪口)としか考えられず」免責を認めることはできないと判示しました。

      この判決は、少数者の民族的教育権についての判断を示さなかったという問題点は残るものの、ヘイトスピーチは、民事上の不法行為が成立すること、人種差別にあたること、また人種差別行為による無形損害が発生した場合に人種差別行為に対する効果的な保護及び救済措置となる額を定めるべきとして、比較的高額な損害賠償額を認めた点に大きな意義があります。


  4.   現在においても、全国各地、特に新大久保や鶴橋といった在日コリアンが多く居住している地域において、在特会のメンバーらが、「よい朝鮮人も悪い朝鮮人も、みんな殺せ」「朝鮮人、頸つれ、毒飲め、飛び降りろ」「5万人の売春婦は韓国に帰れ」といったプラカードを掲げ、「殺せ、殺せ、朝鮮人!」「ゴキブリ、ゴキブリ、朝鮮人!」「朝鮮人を射殺せよ!」「今日は在日の子どもを殺しにきました」「朝鮮人の女をレイプしてもいい」などと叫びながらデモを続けています。

      在日コリアンの子どもたちが、日本人が集団で徒党を組んで練り歩き、「在日の子どもを殺しに来ました」という言葉をきいてどう思うのか、在日コリアンの女性が、「レイプしてもいい」「売春婦」と叫ばれてどう感じるのか、そして全ての在日コリアンが「死ね」「殺せ」という言葉を浴びせられて何を思うのか、在特会のメンバーだけではなく、多くの良識のある日本人に考えてほしいです。皆さんが考えている以上の恐怖と絶望と悲しみがあります。

      2013年6月16日におこなわれた在特会らのデモは、これに反対する一般の人が駆けつけカウンターデモとして、在特会らの行動について強く抗議をしました。その数は、在特会らのデモ参加者が200人に対し、抗議するカウンターデモの側は350人が集まりました。

      在特会らの行為を止められるのは、標的とされている在日コリアンではありません。圧倒的大多数である良識ある日本人の皆さんの力です。
 

婚外子相続分差別についての違憲判決について

弁護士 太田 啓子

  最高裁判所は、平成25年9月4日、婚外子(結婚していない男女の間の子)の遺産相続分を嫡出子(結婚している男女の間の子)の半分とする民法の規定を違憲と判断しました。ある男性に、妻との間に太郎、愛人との間に次郎がいるとして、その男性が死亡したとき、その男性の相続分として、太郎を2としたら次郎は1しかない、というのが今の民法の規定です。次郎としては、父母が結婚しているかどうかは自分では選びようもない事情なのに、片親が違うきょうだいよりも相続分が少ないのは納得できない、憲法14条が定める平等原則に反するではないかと裁判を起こし、最高裁がその主張を認めたというわけです。

  憲法は最高法規であって、効力は法律より強く、憲法に反する法律は無効です(憲法98条)。違憲判断をする権利は、三権分立という考え方に基づいて、司法府(裁判所)が有しています。

  さて、最高裁が違憲判断をした法律については、国会がその判断を尊重し、当該条文を改正するとか削除するという対応がとられるものです。

  ところが自民党の保守系議員は、この最高裁判決に猛反発しました。報道によると自民党の勉強会や法務部会などでは「なぜ正妻の子と『めかけさんの子』に違いが出るのか調べて理解してもらわなければならない」「正妻の地位を脅かす」「家族制度が崩壊する」「最高裁の暴走だ」といった、驚くべき意見が出ました。結果的には(渋々?)当然ながら民法の該当規定の改正に着手するようですが、憲法が最高法規とされている意味、裁判所が法律に対し違憲判断をできる意味(三権分立の意味)を理解していないとしか思えない国会議員がいることにつくづく幻滅しました。

  確かに、妻としては、夫がほかの女性との間に子どもをもうけ、その子どもにも相続分がある分、自分や自分の子どもの相続分が減るというのは辛く悔しいことでしょう。法律婚を尊重するという目的には正当性があると思います。

  しかし、目的を達成するための手段として、婚外子の相続分を減らすということに合理性・正当性があるかということこそが問われ、不当だと判断されたわけです。

  そもそも、いったい誰が「正妻の地位」を脅かしているのでしょうか。婚外子でしょうか。違います、婚外子を誕生させた人です。そんなに「家族制度」「正妻の地位」を守りたいなら、婚外子を誕生させないよう、例えば愛人との間に子をもうけた男性を罰するなど、婚外子を誕生させる原因となった当事者の行為を規制するのが筋です(もちろん女性の相続の場合にも婚外子の相続差別問題は起こり得るのですが、自民党保守系議員の議論では専ら男性の相続のことが想定されているようなので「男性」と書きます)。ところが男性の行為には全く言及せず、子どもの相続分差別を維持することに未練を感じるとは、要するに本音は「男は浮気する生き物だ。妻に言い訳ができるように、愛人との子にいく相続分は少ないことにしておいてほしい」という虫のいい意見だとしか思えません。あまりにレベルが低い議論にあきれ果てました。こういう国会議員に投票したほうの民意も問われます。選挙のときだけでなく日常的に、政治家がどういう発言をしているのかにはアンテナを張り、おかしいと思ったらおかしいと発信することも主権者の責任だと思います。

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